ワタシは、高校生になってから急に暗くなった。
小中学校は子どもの頃から気の知れた友達が多く、肩肘張らずに生活ができていたが、高校に進学してそれまでの環境が一変してからというもの、生きることに窮屈さを感じるようになったからかもしれない。
きっと、不慣れな環境になじめなかったのだろう。
高校から短大へ
新しい環境が苦手なワタシの高校生活は、想像を絶するほど辛いものだった。
組織になじめず、他人になじめず、勉強にもついていけず。おまけに、腸過敏性症候群と片頭痛で体調はいつも最悪。
そんな高校生活で、唯一の光が自分が抱いていた将来の夢だった。
その夢を叶えるには、大学・短大・専門学校のいずれかへの進学が必須。ワタシは、地獄の高校生活を必死で耐えぬいた。
そして、第一希望の短大に無事合格。
ワタシは、生まれ育った土地を離れ、見ず知らずの土地で始まる新しい生活に胸を躍らせた。
でも、ワタシの短大生活は高校生活と変わらないどころか、人生史上最悪の2年間となったのである。
短大のときに出会った友達
ワタシは、短大の2年間を寮で過ごした。
女子短大だったので、寮はもちろん女性ばかり。
寮生活は規律が厳しく、掃除・お祈り(カトリック系の短大だった)・門限など、生活時間が細かく定められていた。
規律に縛られる生活の中での、生徒たちの規律違反、いじめ、盗み、裏切りは日常茶飯事。
班行動が絶対だった寮生活は、班の中でも人間関係のいざこざが絶えなかった。
そんな状況のなか、自分のペースで生活することは一切許されず、神経過敏なワタシは事あるごとに心を揺さぶられた。
それでも、入学したての右も左もわからず心もまだ純粋だったワタシは、人付き合いが苦手ながらも、先輩や同級生から取り残されないように必死に友達づきあいをした。
相手が気の合わない人でも、一生懸命に友達のフリをして、自分の味方をしてくれる仲間を少しでも増やそうとした。
本当は、心を開ける友達など、ほんの一握りだったのに。
赤いピアス
今でも忘れられないワタシから友達への裏切りは、とある2人に向けられた。
1人目は、1年生の時に寮で同じ班だったDさん。
寮には、全国から集まった生徒が暮らしていた。
中には、オシャレで、都会的な雰囲気をかもしだす生徒もいて、ワタシは少なからず彼女たちの影響を受けた。
入寮して間もなく、耳にピアスを開けようということになり、ワタシは同じ班の子にピアスを開けてもらった。
開けた穴がふさがらないように、しばらくピアスをはめておく必要があったが、ピアスをしたことがなかったワタシは、ピアスを持っていなかった。
その時、一時的にピアスを貸してくれたのがDさんだった。赤くて丸い珊瑚のピアスだった。
入寮したての頃は、なんとか仲良くなろうと必死だったワタシたちだったが、徐々に相手の性格や素行がバレていくにつれ、いつの間にか不仲になっていった。
周りの人に嫌われていたDさんとも疎遠になり、ワタシは、もうDさんとも話すことはないだろうと、ピアスの穴を開けた時に借りていたままだった赤いピアスをゴミ箱に捨てた。
それからしばらくして、Dさんがワタシの部屋を訪ねてきた。
赤いピアスを返してほしいというのだ。
なんでも、その赤いピアスは、Dさんの母親がSさんにプレゼントしてくれたピアスだったらしい。
そんな重大な事実を知らなかったワタシは、ピアスを捨てたとDさんに告げることができず、「知らない」とDさんを追い返した。
あの時の、Dさんの悲しそうな顔を、ワタシは今でも忘れることができない。
カプセルホテル
2人目は、寮生活の2年間を一緒に過ごしたEさん。
Eさんとは、短大を卒業してからも手紙をやりとりしたり、ワタシが社会人になってからは、ワタシが住んでいたアパートに遊びに来たりしたこともあった。
ある時、田舎から上京するので、部屋に泊めて欲しいとEさんから頼まれ、ワタシは「いいよ」と返事をした。
あの頃のワタシは、仕事で認められるために必死だった。
Eさんがワタシの部屋に泊まる日。ワタシは、16時に終わる会議の後すぐに家に帰るつもりだったが、その日に限って会議で一緒だった先輩から「ちょっと飲まない?」と誘われた。
ワタシは、Eさんが来るまで少し時間があるしちょっとぐらいならいいか、と軽い気持ちで飲みに行った。
でも、それが間違いの始まりだった。
先輩との会話が思いのほか楽しく、時間を忘れて話し込んでしまったのだ。
ワタシは、Eさんを待たせるのは悪いと思いながらも、Eさんから再三来るメールに、仕事が終わらないとウソをつき続けた。
結局、家に帰ったのは24時近くになっていた。
Eさんは、ワタシのアパートの最寄り駅近くで時間をつぶしていたようで、Eさんからの最後のメールは、カプセルホテルを探してそこに泊まることにしたとの内容だった。
ワタシは、そのメールに謝罪のメールを返したものの、Eさんに対して悪気を感じることはなかった。
後日、Eさんと少しだけ電話で会話する機会があったが、その時のEさんの声音はあきらかに不機嫌だった。
それからしばらく時間が経った頃、ワタシの元に1通のハガキが届いた。
それは、あの時、随分待たされたことに対するEさんからの怒りのハガキだった。
ハガキを読み終わったワタシは、それをゴミ箱に捨てた。
Eさんは、ワタシに謝ってほしかったのだと思う。でも、ワタシは彼女に謝ることができなかった。
なぜなら、寮生活の時から、ワタシはEさんを本当の友達だと思っていなかったから。
友達のフリをした友達だったから。
ワタシは、Eさんに謝ることで、またEさんとの友達関係が復活するのを避けたかったのだ。
彼女たちへの贖罪の念をいつまでも忘れない
友達じゃないから、裏切ってもいい。
ワタシは、自分を愛せないアダルトチルドレンだった。自分を愛せない人間が、他人を愛せるわけがない。
Dさんも、Eさんも、ワタシの犠牲者。自分のことを何も知らなかった昔のワタシの犠牲者。
アスペルガー症候群でもあるワタシは、他人の気持ちを理解したり、他人に興味をもつことがとても苦手だ。
でも、自分の特性を自覚した今、ワタシが過去に犯した過ちは決して許されるものではない。
今の気持ちのまま、高校時代や短大時代に戻れたら、もっといい人生が送れたかもしれない。
不器用だった昔の自分に後悔だけが残る。